夕学五十講 「ビジネス・インサイトとは何か」石井淳蔵流通科学大学学長

早めに退社し,新幹線を乗り継ぎ行ってきました.

以下,要約というよりも,パワポ資料を必死に書き残したもの.講義の内容は「ビジネス・インサイト」の内容に沿ったものですが,やはり生で話を聞くというのはいいものです.脚注はそのとき石井先生が話されたことや,私が感じ取ったこと.

  • ビジネス・インサイト神戸大学ビジネススクールの理念*3
    • 理論と実践の融合:働きつつ学び,学びつつ働く*4
    • 共に助け合って学ぶ:プロジェクト研究*5
    • ビジネス・インサイト:ビジネス・アナリシス*6,*7,*8
  • 経営者は跳ばなければならない
    • 三好俊夫氏(松下電工会長)・・・「強み伝い(つよみづたい)の経営は破綻する
  • 経営者は跳ばなければならないか?
    • 人は組織を超えられない
    • 企業は業界を超えられない
  • 食品業界,電機業界,GMSの投資収益率(過去40年)
    • いずれも右肩下がり*9
    • いずれの企業も業界のトレンドから逃れられない・・・企業は業界を超えられない
    • どうして?
  • 資本主義の危機
    • 労働コストの上昇*10
    • 環境コストの上昇*11
    • 福祉コストの上昇
    • 経営者コストの上昇*12
    • インフラコストの上昇
  • 過剰品質のメカニズム
    • 技術進歩のペースが顧客が利用できる可能性のペースを上回る*13
    • にもかかわらず,機能を追加し,改善を施していく.結果としてその開発投資を回収できず,利益率は低下する
  • ビジネス・インサイト
    • 新しい地平を拓いていく
  • ビジネス・インサイトの例
  • 創造的瞬間
    • 時間の流れが一瞬止まり,ある空白の時間が流れた後,今まで自分を縛り付けていたフレームが弱まり,逆に内的な創造性や連想力が活性化する
  • 無意識のうちの認識・・・tacit knowledge
    • 1.エビデンスは揃っていない,かなり早い段階で鍵となる概念あるいは全体像が見える
    • 2.それが課題を解決することについて確信をもつ
    • 3.その世界は,世界を大きく変えることを理解できる
    • Michael Polanyi 暗黙知の理論=隠れた認識.“どうしてそのことが認識できたのかわからないが認識できる”説明はできないけれども,分かってしまっている.*15
  • 暗黙の認識を助ける3つの手法・・・対象に棲み込む,忘我
  • <人>に棲み込む
    • その人の身になって考える*16
    • 手法としての民族史(エスノグラフィー)
    • 手法としての観察(オブザーベーション)*17
  • <理論>に棲み込む
    • 松下幸之助本田宗一郎中内功の共通点・・・起業した後,学校へ.
    • 企業の役員がセミナー受講しても役に立たない.創業オーナーが自分の問題として切実に考えるからこそ,理論という客観性が腑に落ちる
    • 理論を自家薬籠中のものとする
    • 理論に新しい光をあてる(創造的適応)
  • <モノ>に棲み込む
    • 既存の枠組みで見ない
    • そのモノのあらゆる可能性を考える
    • ブリコラージュ*18.転用する.換骨奪胎する
    • STPからドメイン
  • 経験をマネジメントする
  • 経験を言葉で表す
    • 経験を時間の流れの中に埋没させない
    • ビジネスのパターン,モデル,理論として把握する
    • そのために経験に言葉を与える.抽象化する.
    • それを他分野に援用する
    • 帰納による理論づくり.理論の応用
    • 商品化*19,配送密度,地域集中出店戦略,経験価値マーケティング,鮮度管理,飲料化率
  • 新しいビジネス教育を目指して
  • <ビジネス・インサイト>を思考するビジネス教育
    • 1.経営実践者の立場になって考える.*20経営実践社の問題を,自分自身の問題として考える
    • 2.経験を記述する.ブラックボックスとなった言葉や概念を解き放つ
    • 3.みずからの経験を丁寧に拾い上げ,創造的瞬間を自覚する
  • 世の中に当たり前はない!
  • 当たり前の経営もなければ,愚直な経営もない*21

質疑応答

  • 先生の話は大量生産,大量消費分野には適しているように思えるが,一品設備やカスタム品にも適用可能か?
    • カール・ルイスリロイ・バレル.ルイスにはミズノが,バレルにはアシックスがシューズを提供.バレルの"反発力が足らない"という要求に対し,開発者は地面とシューズ裏との間の反発力と考え,新しい材料を貼り付けたりした.ところが実際には,シューズの中で足がずれることによって力が逃げてしまうこと伝えたかったのだということが後から分かった.一方のミズノは足のサイズにしっかりとフィットするシューズを開発していた.たった一人の市場ニーズであってもとり間違えることがあるわけだから,カスタム品のようなものであってもインサイトは十分働く.
  • 創造的瞬間にめぐり合いやすい人というのはいるのでしょうか?
    • 中内さんの話(袋詰め販売)などは誰にでもできそうだし,難しい話ではない.ただ,それを概念化できるかどうかは難しい.それができたのは創業オーナーで,自分自身の問題として切実に考えたからではないか.
  • 社内で人材育成を担当しているが,研修などでは分析的な内容が多い.インサイトを育むことのできるような研修例は?
    • エスノグラフィーをやっているひとの教育の仕方などが参考になるのではないか.神戸大学の宿題で*22,大学から最寄り駅までの帰宅途中(15分くらい)に起こったこと,気付いたことを書きなさいというものがあった.その15分間を長編小説にできるかどうか.2時間のスターバックスでの経験を卒論にした人がいた.いままででベストなものではないか.じっくりその場所を観察していると,スターバックスが何をしたいと思っているのかを感じ取れる.経験を記述するスキル.

関連書籍

*1:パワポ資料ではなく口頭にて

*2:スーパーマーケットライフ http://www.lifecorp.jp/

*3:国立大学としてはずば抜けて早い平成元年の設立.

*4:KBSや一橋のように独立大学院ではない.学部生,一般院生,社会人学生にも教える.働かない人は来てはいけない.

*5:際立った一人がことを成し遂げるというよりも,組織の力として何かを生み出すのが日本の特徴

*6:KBS,一橋はアナリシス派.世界を客観的に眺めれば,おのずと進むべき道が見えてくるはず・・・といった考え.

*7:でも分かったときには競争相手も同じことを考えてるはずだよね.そうしたら結局は競争ドロ沼化

*8:確率的にこれでいけるのではないだろうか・・・というのがビジネス・インサイト

*9:例外は電機業界のキヤノン

*10:日本の高度成長期,農村からの出てきた次男,三男といった安い労働力に支えれられていた

*11:30年前にはなかった概念

*12:ウォーラーステイン「脱商品化の時代」;isbn:9784894344044

*13:クリステンセンの話ね

*14:「ビジネス・インサイト」参照;asin:9784004311836

*15:'we can know more than we can tell'ってやつ.本来Polanyiがいいたかったのは,パンこねとかそういった話ではない. asin:9784822244064

*16:共感的に理解する

*17:科学における対象を自分から切り離して客観的に観察することとは大きな違い

*18:クロード・レヴィ=ストロース; asin:9784622019725

*19:ダイエーを窮地から救ったのはおかしのパッケージ化.これを中内氏は商品化と読んだ.買いやすく,使いやすくする.タマゴパック,牛乳の紙パッケージなども中内氏のアイデアによるとのこと

*20:現実には,複雑な経営問題のほんの一部を切り出して,理論の枠組みで考えていることが多々ある.例えば,海外に工場建設するのにペイするかどうかなど.

*21:現在に至った道を振り返ってみると,あたかも当たり前のことを当たり前のようにやってきたように見えてしまう.でも実際にはその時々で取りうる選択肢が多々あったはず.

*22:何学部のものかは忘れた